星野メトメの本棚

詩とか小説とか勉強研究とかをこの本棚に置いときます。存在を知ってくれただけでも本当に嬉しいです。

彼岸の時間《意識の人類学》の論評

この著書は、独特な宗教儀礼、ドラッグ、多様な宗教観、シャーマ二ズムなど一般的にあまり知られていない文化をフィールドワークや文献研究した著者が、その根底にある時間概念をテーマに、意識とは何かを考察したものである。

 

農耕文化は毎年同じ時期に同じ作物を育てるが、そこに作物の発展はなく、ただ同じことを毎年繰り返すのみである。その繰り返しは農耕文化の人々が循環する時間感覚を持っていると考えられる。

 

また、著者は幻覚作用をもたらす植物を宗教儀礼で用いる南米部族を紹介しているが、そうして超存在や精霊といった神秘存在に幻覚世界で迎合することは、現代では忘れられつつあるアニミズムへの回帰という意味で、反転する時間と考えている。

 

現代での時間感覚はどうかというと、上記で述べた反転する時間とは対照的に、前進する時間と考えられる。資本主義が支配する現代は、各々が利益のために推し進め、競い合い、常に前へ向かっているためだ。そこに終わりはなく後退もない。

 

そしてこれらの時間感覚の違いは、異文化を異常だと決めつけることに繋がる。私達は時間は進むものだと考えているが、そう考えない人もいる。しかし、時間感覚という主体中心かつ客観視が極めて難しいほどに浸透した感覚は、常にイデオロギーの違いを、そこに違いがあると了解しさえすれど、理解を難しくする。それは意識のレベルで根付いたバイアスといえないか。「時間」を全人類の共有物としてみなしたとき、意識の深さが我々を覗き込む。