星野メトメの本棚

詩とか小説とか勉強研究とかをこの本棚に置いときます。存在を知ってくれただけでも本当に嬉しいです。

創作︰神様のなり方

他人に比べればしょうもない挫折、他人に比べればしょうもない才能、他人に比べればしょうもない存在価値、それらに苛まれた弱い青年は、

 

「人類なんか滅べ!」

 

と叫んだ。深夜3時に酒を買いにコンビニに行った帰りのことだ。周囲には人はいなかった。

 

下を向いた顔すら照らす淡く白い光に気づき正面を向くと、白い靄のような人間らしき者が立っていた。

青年にはその存在が神に感じられた。直感的に。

 

神は右手を上げ青年の方に向けると、その白く光る手は弓の形に変形し、即座に光の矢が射られた。

光の矢は真っ直ぐ青年に向かって飛び、矢先が青年の右眼を裂き潰した。

 

「神の目をあげるよ」

 

そう言って白い靄の人間は、光と矢と共に消え去った。

 

あまりの激痛に声も叫びにもならない青年の悶絶は、白い靄の人間が消えると共に消滅した。

しかし右眼に視力は戻らない。本当に潰されたらしい。

生来の右眼の代わりに、神の目が埋め込まれていた。

青年は地面に跪いて、歩道に敷き詰められた赤い煉瓦に向かって、憎しみを込めて言葉を吐き出した。

 

「なんなんだよ…なんなんだよこの世界は!

…いいからさっさと、滅んでくれよ」

 

天にも滅びの願望を伝えてやろうと、夜空と対面するため青年は空を仰ぎ、もう一度「滅べ」と憎しみを込めて言った。

 

青年の声が発せられると共に、彼の右眼は神々しく光り、白く輝く無数の剣が眼から生み出された。

 

その剣は次々と生成され、夜空高く、雲の上にまで放出され、四散し、放物線状に地上に降り注いだ。

 

青年の意識はすでになかった。

 

こうして青年以外の人類は滅んだ。

 

青年が目を覚ましたとき視界を占めた光景は、無数の剣が地面に突き刺さり連なる灰色の世界だった。

 

青年は自分が人類を滅ぼしたのだと理解した。正確には理解させられた。

 

大きな罪悪感に駆られた青年は立ち上がって、近場に刺さる剣を抜き、惑うことなく自分の腹に突き刺した。

 

しかし、なぜか痛くない。なぜか傷口はすぐ再生する。

 

神の目を介して力を得た青年は、死ぬことができない。

 

「罪悪感とは呪いの一種だ。最も危険な呪いと言っても過言ではない」

 

脳に響く声がした。

 

「誰か知らないが殺してくれ…許されなくていいから、殺してくれ…!でないと、どうにか、どうにかなりそうなんだよ!」

 

青年は地面に頭を擦りつけながら叫んだ。

 

「至極の罪悪感、それを消すには死ぬしかないだろう。だから君を殺せなくした」

 

「なんでだよ」

 

「呪いに縛られたまま、人類が滅びたこの世界でただ1人生き続けるんだ」

 

「呪い…?」

 

「罪悪感という呪いは、ヒトをヒトでなくす呪い。人間を欲望から背かせ、理性に縛り、生を放棄させる力がある。

十字架を背負い、行く末を観測していけ、何千年、何万年と。それが君の生き方だ。そうすれば、いずれ神となる」

 

「神…?」

 

「そう、いつの世も、こうして人は神になる」